病棟で働く看護師はエンゼルケアに携わる機会が少なくありません。人生の最後を迎えた患者さんに対して施すエンゼルケアについて、まずはおおまかな概要と基本的な考え方を紹介していきます。
エンゼルケアは日本語にすると「死後処置」という意味です。患者さんの死後、その人らしい装いに整えて人生の最後にふさわしい外見にします。外見を整えるケアであることから、「エンゼルメイク」と呼ばれることもあります。長い闘病生活の末に最期を迎えた患者さんの場合、生前とは外見が大きく異なっていることも少なくありません。また、着衣の汚れや点滴などの挿入物が付いている場合もあります。看護師は、そのような状態の患者さんに対してエンゼルケアを施し、人としての尊厳を最後まで守る役割を担います。
エンゼルケアの目的としてまず挙げられるのは、「患者さんの尊厳を守る」ことです。上述の通り、患者さんが亡くなった際に点滴やドレーンなどが挿入されていることがあります。人生の最後をそういった状態で旅立つのは本人にとっても悔しいことでしょう。そこで、その人らしく最期を迎えられるようにエンゼルケアを施します。
また、「ご家族の心理的ケア」もエンゼルケアの目的として挙げられます。闘病生活が長い患者さんだと、入院時の容貌とは大きく異なった状態であることが少なくありません。そのような姿を見るのはご家族にとっても辛いものです。外見が大きく変わったことで、死を受け入れられないご家族もいるでしょう。そこでエンゼルケアを行うことで、ご家族の心理的な負担を軽減することができるのです。ご家族と一緒にエンゼルケアを行うことで「最後に自分たちの手でケアをしてあげられた」という気持ちが生まれ、自然と患者さんの死を受け入れることもできます。
そして、「感染予防」の観点からもエンゼルケアは大きな役割を担います。挿入物が入っていた部位から体液や血液が漏出して感染症を引き起こす可能性があるため、適切なエンゼルケアで感染予防を行います。
エンゼルケア不足看護理論を提唱したドロセア・オレム氏は、エンゼルケアについて「人はセルフケアをする存在であり病人は病気によって一部セルフケアができない存在となる。そのできない部分を補うことが看護である」と定義しています。死亡した患者さんはセルフケアが全くできない状態であるため、周囲が本人に代わってケアを行うことがエンゼルケアの基本的な考え方です。つまり、エンゼルケアを行う際には、「本人が生きていたらどのようにセルフケアを行うのか」という観点を持つ必要があるのです。
他の国は日本ほど積極的にエンゼルケアを行っていません。死に対する考え方の違いや法律的な理由から、亡くなった患者さんに看護師が触れられる機会が少ないのです。日本でも宗教的な理由からエンゼルケアを断られることはありますが、それでも世界トップレベルの内容です。
訪問看護で行うエンゼルケアの処置内容は病院とほとんど変わりませんが、時間の感じ方やご家族への対応が若干異なります。これまで故人を必死に支えてきたご家族からすれば、すぐに死を受け入れるのは難しいものです。そのため、ご家族へのケアが重視されます。
エンゼルケアは病院で行うもの以外にも、葬儀社が行うものもあります。病院で行うエンゼルケアは医療行為としての側面があるため、看護師などの専門的な知識を持ったスタッフが行います。また、病院と葬儀社では費用も異なります。葬儀社の方が費用相場は高いようです。