世界の多くの国では、患者さんの死を「医療の終了」と捉えていることが多いため、死亡が確認された後でケアを提供することは珍しい傾向にあるようです。日本は独自の遺体観や看護観を有するため、他の国とは異なる点が多いのです。宗教観の違いも考えられますが、日本はキリスト教、仏教、神教、新興宗教、あるいは無宗教など、あらゆる宗教観を持った人がいる中でも分け隔てなくエンゼルケアを提供しています。宗教のルールによりご遺体へのケアを禁じている場合もあるため、全ての人に提供可能なわけではありませんが、それを踏まえた上でも日本の看護領域におけるエンゼルケアは世界トップクラスです。
北米では患者さんが死亡した後はすぐに葬儀社に引き渡され、早い段階で葬儀が行われます。また、剖検率が高く病理解剖や法医解剖が積極的に行われます。剖検後も看護師がご遺体に触れる機会はなく、そのまま葬儀社に引き渡されます。このように、北米では看護師がエンゼルケアを行う機会がほとんどありません。血液の拭き取りなど、必要最低限のケアが主流です。病院や介護施設などの施設死亡率が日本は90%以上であるのに比べ、アメリカは40%と低く自宅死亡率が高いことも要因として考えられます。
中国・台湾はご遺体に関する法律が明確に線引きされており、看護師がエンゼルケアをすることはほぼありません。医学や医療は衛生部に所管されており、これらの法律に沿って業務を行います。しかし、ご遺体に関する法律は民政部が所管しているため、患者さんの死亡後は管轄外となるのです。国家資格を有していたとしても、ご遺体に対するケアを行うことはできないのです。解剖に関しても一部は衛生部所管ですがほとんどは民政部・公安部所管で行われます。
韓国は医療スタッフによる清拭などは行いますが、日本ほど積極的には行いません。韓国は儒教思想が強いため、ご遺体に対する思いや考え方が日本以上に強い傾向にあり、死亡後の解剖に対する拒否感も非常に強いです。そのため、エンゼルケアはご遺族が行うものというのが基本的な考えです。故人と生前近しかったご遺族が清拭や化粧、着付けなどをして故人の外見を整えます。
このように、他の国と比べると日本の医療現場におけるエンゼルケアは非常に積極的に行われていることが分かります。
他の国は日本ほど積極的にエンゼルケアを行っていません。死に対する考え方の違いや法律的な理由から、亡くなった患者さんに看護師が触れられる機会が少ないのです。日本でも宗教的な理由からエンゼルケアを断られることはありますが、それでも世界トップレベルの内容です。
訪問看護で行うエンゼルケアの処置内容は病院とほとんど変わりませんが、時間の感じ方やご家族への対応が若干異なります。これまで故人を必死に支えてきたご家族からすれば、すぐに死を受け入れるのは難しいものです。そのため、ご家族へのケアが重視されます。
エンゼルケアは病院で行うもの以外にも、葬儀社が行うものもあります。病院で行うエンゼルケアは医療行為としての側面があるため、看護師などの専門的な知識を持ったスタッフが行います。また、病院と葬儀社では費用も異なります。葬儀社の方が費用相場は高いようです。