ここでは、エンゼルケアの場面に立ち会ったとある看護師の体験談を紹介します。エンゼルケアに興味のある看護師には参考となる部分もあるかと思いますのでぜひご覧ください。
救急外来で90歳の女性が亡くなりエンゼルケアの準備をしていたところ、亡くなった女性のお孫さんから「私もエンゼルケアに入れませんか?」と聞かれました。ご家族からそういった要望を聞くのが初めてだったA子さんは動揺しました。「病院関係者以外が処置をしても大丈夫なのだろうか?」などと悩んでいると、続けてお孫さんから「私は介護の仕事をしていて、最後におばあちゃん孝行してあげたいんです」と聞かされました。すぐに上司に確認したところ、「今日は外来も落ち着いているし、イレギュラーではあるけど一緒にエンゼルケアをしてあげましょう」と指示されました。
一緒にエンゼルケアをしても問題ないことをお孫さんに伝え、早速準備を進めました。心電図モニターの電極や点滴の取り外し、体液漏出防止の処置はA子さんが行います。身体の清拭を一緒にしている最中、「まだおばあちゃんあったかい」「最近は認知症が進んで私のことも分からなくなっていたんですよ」など、おばあちゃんへの想いや思い出を話してくれたそうです。亡くなった直後は悲しみに暮れていたお孫さんも、ケアを進めていくうちに時折笑顔がこぼれるようになりました。
エンゼルケアを終えて間もなくお迎えの車がきたため、そのままお見送りをしました。お孫さんからは「無理なお願いを聞いていただき本当にありがとうございました。最近はあまり会うこともできず、寂しい思いをさせてしまっていたことが心残りでしたが、こうやって最後にエンゼルケアができてよかったです」といわれました。病院を出ていくお孫さんの後ろ姿を見たA子さんの中には大きな達成感が生まれたそうです。
この時A子さんは、訪問看護に携わっている先輩看護師から教えてもらったとある話を思い出しました。その先輩は、看取りをした後のご家族へのサポートの重要性を説いていたそうです。患者さんは亡くなる直前まで、息を吹き返したり苦しんだりを繰り返しています。その様子を見ているご家族も必死になって支えており、だからこそ心も疲弊していきます。やがて人生の最後を迎えた後、遺されたご家族は「本当に上手く看取れたのだろうか」と自問自答を始めます。死を受け入れられず、辛い感情を抱えたままこれからの日々を過ごすかもしれません。そうならないように、ご家族のサポートは必ず必要なのだと先輩は熱く語っていました。
初めてご家族と一緒にエンゼルケアを行ったAさんは先輩の言葉の意味をあらためて理解し、エンゼルケアの重要性について考えるきっかけになったそうです。
他の国は日本ほど積極的にエンゼルケアを行っていません。死に対する考え方の違いや法律的な理由から、亡くなった患者さんに看護師が触れられる機会が少ないのです。日本でも宗教的な理由からエンゼルケアを断られることはありますが、それでも世界トップレベルの内容です。
訪問看護で行うエンゼルケアの処置内容は病院とほとんど変わりませんが、時間の感じ方やご家族への対応が若干異なります。これまで故人を必死に支えてきたご家族からすれば、すぐに死を受け入れるのは難しいものです。そのため、ご家族へのケアが重視されます。
エンゼルケアは病院で行うもの以外にも、葬儀社が行うものもあります。病院で行うエンゼルケアは医療行為としての側面があるため、看護師などの専門的な知識を持ったスタッフが行います。また、病院と葬儀社では費用も異なります。葬儀社の方が費用相場は高いようです。